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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)138号 判決 1992年1月21日

原告

株式会社島津製作所

被告

スローン・テクノロジー・コーボレーション

主文

特許庁が昭和五七年審判第一六五二九号事件について昭和六三年四月七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文一、二項と同旨の判決。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

本件特許各発明 特許第九四五七二四号

出願日 昭和四八年一一月八日(アメリカ合衆国一九七三年七月五日出願に基づく優先権主張)

出願公告日 昭和五三年六月二〇日(昭五三-一九三一九号)

設定登録日 昭和五四年三月三〇日

発明の名称 「カソードスパタリング装置」

特許権者 被告

特許無効審判請求

審判請求日 昭和五七年七月三一日(昭和五七年審判第一六五二九号事件)

請求人 原告

審判請求不成立審決 昭和六三年四月七日

二  本件特許各発明の要旨

1  排気可能な囲い内で、該囲い内に収容された基体を被覆するカソードスパタリング装置において、スパタされる物質の面を有する陰極を設け、磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられ、この磁気装置の一対の磁極間に現われる磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点から出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の彎曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成し、その内部では帯電粒子が保持され、かつそれに沿って移動する傾向にあるトンネル状通路を形成し、前記陰極に近接して陽極を設け、前記陰極と陽極を電源に接続する接続装置を備えたことを特徴とするカソードスパタリング装置(第1項発明)。

2  導電性陰極支持体が前記陰極をそれと面どうし密接した状態で支えている特許請求の範囲第1項記載のカソードスパタリング装置(第2項発明)。

3  磁気装置が磁石に隣接しておかれ、前記磁極を形成し、そして陰極の前記側面へ隣接して配置された一対の磁性極片を具備し、よって磁力線が主として該陰極を通過して向けられている特許請求の範囲第1項記載のカソードスパタリング装置(第3項発明)。

(別紙一参照。)

三  審決の理由の要点

1  本件特許各発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  当事者の主張

審判請求人(原告)は、本件特許各発明は、本件特許の出願前の出願に係る特願昭四五-七三七五九号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特公昭四九-四九一一九号公報参照。)(以下、「先願公報」という。)に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と同一であり、その発明をした者が本件特許各発明の発明と同一の者ではないから特許法二九条の二の規定に違反して特許されたものであり、また西独国特許公開第二二四三七〇八号明細書(以下、「引用例一」という。別紙二参照。)及び米国特許第三二一六六五二号明細書(以下、「引用例二」という。別紙三参照。)の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法二九条二項に違反して特許されたものであり当然に無効である旨主張している。

これに対して、被請求人(被告)及び被請求人補助参加人(日本真空技術株式会社)は、本件特許各発明は先願発明とは異なるものであり、また引用例一及び二の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許は無効とされるべきものではない旨主張している。

3  審決の判断

(一) 先願公報には「圧力調整装置と、該圧力調整装置により内部圧力が調整され放電に適する真空圧を得る真空装置と、該真空装置内に配された平板状の陰極機構と、該平板状の陰極と対向し陰極の板面と平行する面内にその軸心を有し、且つこの面において二次元的に配列された複数のリング状又は筒状陽極と該陽極の中心軸に略々沿った磁界を発生する磁界発生機構と、右陽極を挟んで陰極と反対側に配置した被膜されるべき基板とを備えた電子放電装置」が記載され、この装置はペニング放電を利用したスパッタ(本件特許各発明の「スパタ」と同義、以下「スパタ」という。)装置等に適用して効果がある電子放電装置であり、特に複数のリング状又は筒状陽極を該陽極の中心軸に略々沿った磁界を発生する磁界発生機構を備えた点に特徴を有する。

そこで、本件特許各発明と先願発明とを比較すると、両者は共にスパタリングのための装置ではあるが、先願発明はループ状陽極を中心とし左右陰極間の空間内に電子を閉じ込めているのに対し、本件特許各発明は主として磁力線によって電子を閉じ込めるものであり原理的にも構造的にも相違するものである。

したがって、本件特許各発明は先願発明とは別異のものであり特許法二九条の二の規定に違反せず、請求人の主張はなんら根拠のないものである。

(二)(1) 請求人は、引用例一について、その訳文として特開昭四九-二六一八四号公報(以下、「訳文公報」という。)を提出して本件特許が無効であると主張しているが、被請求人が主張するように、訳文公報は引用例一の真正な訳文とは認められないものであり、また被請求人の催促にもかかわらず正式な訳文の提出がないから、適法に審理することができない。

(2) ただ、念のため、仮に訳文公報が引用例一の訳文としたうえで以下検討する。

引用例一(訳文公報)には「材料のスパッタリング等のためのグロー放電装置において、材料がそこからスパッタリングされる陰極手段を持ち、該陰極手段は電源に結合されるようになっているとともに、中心の細長い部分、並びにそこから半径方向に伸びる両端を持っていて、前記両端の間に前記中心の部分が隣接したトラップ区域を形成し、更に、陰極手段の前記トラップ区域に近接していて電源に結合されるようになっている陽極手段と、前記陰極手段の中心の部分に密に隣接しかつそれと略平行な磁力線を持つ磁界を前記トラップ区域内に発生する磁界手段とを持っているグロー放電装置」が記載され、特にその陰極構造として「グロー放電装置に用いる陰極構造において、中心の細長い部分を持ち、その両端にフランジを持っていて、前記中心の部分並びにフランジがその中に空洞を有する陰極手段と、前記中心の部分及びフランジを結合する手段と、前記陰極手段の内部に装着されたスプール手段とを有し、該スプール手段が陰極手段の中心の部分の内部に装着される中心の細長い部分、及び陰極手段の夫々のフランジ内に装着される翼部分を持っている陰極構造」が記載されている。

(3) そこで、本件特許各発明と引用例一(訳文公報)記載の発明とを対比すると、両者は陰極スパタリング装置において陰極近辺に磁界によるトラップ区域を設ける点で軌を一にするが、引用例一(訳文公報)のものは本件特許各発明とは異なり磁極が陰極に接して設けられておらず、磁力線の大部分が電極より大きく離れた位置を迂回しており、電極表面では不充分な閉領域しか形成されず、両者は構成のみならず作用効果においても相違する。

(三) 引用例二には、イオンポンプにおいて本件特許各発明のものと類似の電極と磁界発生手段との配置に関する記載があるが、イオンポンプに関する技術をただちに本件特許各発明のスパタリング装置に適用し得るとは認められないから、引用例二を引用しても本件特許各発明が引用例一(訳文公報)の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

4  以上のとおり、請求人の各主張は根拠がなく、本件特許を無効とすることはできない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1、2、3(一)、3(二)(1)及び(2)は認める。但し、同3(二)(2)の引用例一の記載内容の認定には、重要な記載事実についての看過がある。同3(二)(3)のうち、本件特許各発明と引用例一(訳文公報)記載の発明とは陰極スパタリング装置において陰極近辺に磁界によるトラップ区域を設ける点で軌を一にするとの点は認め、その余は争う。同3(三)のうち、引用例二には、イオンポンプにおいて本件特許各発明のものと類似の電極と磁界発生手段との配置に関する記載があるとの点は認め、その余は争う。同4は争う。

審決は、引用例一の重要な記載事実を看過したため、本件特許各発明(本件特許第1項発明及びこれを引用する同第2、第3項発明)が引用例一に記載されていないと誤認し(取消事由一)、また、イオンポンプに関する技術をスパタリング装置に適用し得ないとの誤った判断により本件特許各発明の進歩性を肯定したものであり(取消事由二)、違法であるから取消しを免れない。

1  引用例一の記載内容の看過による発明の同一性の誤認(取消事由一)

(一) 引用例一は、本件特許の出願前である昭和四八年四月二六日に西ドイツ国において刊行物として頒布されたものである。

この引用例に記載された磁界発生手段に関して、審決は「陰極手段の中心の部分に密に隣接しかつそれと略平行な磁力線を持つ磁界を前記トラップ区域内に発生する磁界手段」と認定しているが、これは別紙二の図1、図2に示された実施例のみに着目したものであって、本件特許各発明の新規性及び進歩性を判断するうえにおいて重要な図5bないし5dに示された各実施例について看過するという誤りを犯している。

すなわち、右図1及び図2に示されたカソードスパタリング装置は、「プラズマをトラップする閉領域を形成するために陰極14に対して略平行な磁力線172を発生させる磁界手段を備えたもの」であるから、この実施例だけを見る限りにおいては審決の認定に誤りがあるとはいえない。しかしながら、引用例一における別紙二の図5bないし5d及び三三頁九行ないし三四頁八行(訳文三二頁一一行ないし三三頁一二行)によれば、引用例一には「二個の界磁コイル328、329等が電極313、314に設けられ、湾曲して電極に終端する磁界を発生する。従って第5b図に示す実施例は同様に、電極313、314の協動により閉じ込められる単一のプラズマトラップを形成する。」と記載されていて「陰極をなす電極313、314の反対側の面に磁気装置としての界磁コイル328、329等が設けられ、一対の界磁コイル328、329等の間に現われる磁力線319が、電極313、314の互いに離間した交点から出てかつ入って、交点間を延びる磁力線319の湾曲した部分と電極313、314面との間にトンネル状のプラズマトラップを形成する」装置が明瞭に示されており、また、「第5c図に示す実施例も、電極313、314に設けた二個の界磁コイル330、331を用いているこの場合において、それぞれのコイルから発生される磁界は同一電極から始まり同一電極に終端している。」と記載されており、更に、この磁界発生手段には永久磁石を用いてもよい旨の記載も存在する。したがって、ここに示された各実施例は、磁気装置としての界磁コイル318、319等が陰極をなす電極313、314の中心の部分に密に隣接して配設された構成を有するものではなく、またこれらの実施例は磁力線を陰極手段に対して略平行に発生させるものではなく、本件特許の第1項発明が要旨とする「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられ、この磁気装置の一対の磁極間に現われる磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点が出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の彎曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成し、」との構成を示すものであり、引用例一記載の右実施例に示された発明と本件特許第1項発明との間になんら構成上の相違は存在しない。

(二) 審決は、引用例一のものは本件特許各発明とは作用効果においても相違すると判断するが、いかなる点の作用効果が相違するのかの具体的な指摘を行っていない。

封じ込め上の効率を問題としているのであれば、この点は荷電粒子の速度と磁束密度とに相対的に依存する問題であって、本件特許各発明はこの点を対象としてはいない。そして、陰極面に閉の曲線でもって交わる磁力線を発生する磁極によりプラズマをトラップするという技術が引用例一に開示されている以上、このものと本件特許各発明との間に作用効果上もなんら相違するところはない。

(三) 以上によれば、本件特許第1項発明と審決が看過した引用例一記載の発明とは同一の発明であると認めるのが相当であるところ、審決は、両者が構成上同一であることを看過し、本件特許各発明が引用例一に記載されていないと誤認した違法があるものといわなければならない。

2  本件特許各発明の進歩性に関する判断の誤り(取消事由二)

(一) 引用例二は、本件特許の出願前である昭和四〇年一一月九日に米国において刊行物として頒布されたものである。

ここに記載された装置はイオンポンプに関するもので、本件特許各発明に係るカソードスパタリング装置とは用途を異にするものではあるが、両者はともに荷電粒子をトラップするという技術課題のもとになされたものである点で共通の技術であって、この点を勘案することなく単に装置の用途の違いのみをもって本件特許各発明に適用し得ないとした審決の判断は失当である。

(二) そして、仮に、本件特許各発明と審決が看過した引用例一の図5bないし5dに示された発明とが同一とは認められないとしても、被告が両発明の相違点として後に主張する、本件特許第1項発明の「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられ、この磁気装置の一対の磁極間に現われる磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点から出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の彎曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成」する構成は、引用例二に開示されている。

因みに、引用例二の五欄七三行ないし六欄二〇行(訳文一〇頁一四行ないし一一頁五行)及び図6には、陰極面上に湾曲した磁束を形成してこの磁束を荷電粒子に作用させる装置において、導電性を有する支持体に面同士を密着させた状態で陰極18を支持するようにしたものが示されている。これは、本件特許の第2項発明として付加された構成、つまり、「導電性陰極支持体が陰極をそれと面どうし密着した状態で支えるようにした」構成そのものをなしている。また、引用例二の三欄五八行ないし四欄一四行(訳文六頁五行ないし七頁四行)及び図1には、陰極面上に湾曲した磁束を形成してこの磁束を荷電粒子に作用させる装置において、磁気装置を陰極面と反対側に隣接させた磁極片24、24'、24"と永久磁石22、22'、22"により構成したものが示されている。これは、本件特許の第3項発明として付加された構成、つまり、「磁気装置が磁石に隣接しておかれ、磁極を形成し、そして陰極の側面へ隣接して記載された一対の磁性極片を具備し、よって磁力線が主として陰極を通過して向けられている」として記載された構成に相当するものである。

以上によれば、本件特許各発明は、引用例一及び二に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものであることは明らかである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

請求の原因一ないし三は認める。同四のうち、引用例一は本件特許の出願前である昭和四八年四月二六日に西ドイツ国において刊行物として頒布されたものであること、及び、引用例二は本件特許の出願前である昭和四〇年一一月九日に米国において刊行物として頒布されたものであることは認めるが、その余は争う。審決に認定、判断は正当であり、審決を取り消すべき違法はない。

一  取消事中一に対する主張

引用例一には本件特許第1項発明の「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられ、この磁気装置の一対の磁極間に現われる磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点から出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の彎曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成」するとの構成以外の構成が開示されていることは認めるが、右に摘示した構成は開示されていない。したがって、引用例一には本件特許第1項発明と同一の構成は記載されていない。

引用例一の図5bないし5dの実施例は、審決が認定するように、「磁極が陰極に接して設けられておらず、磁力線の大部分が電極より大きく離れた位置を迂回しており、電極表面では不充分な閉領域しか形成されない」ものであるから、審決において充分に審理されたものであり、審決に原告主張の点の看過はない。

なお、界磁コイル328、329、330、331の中心軸は電極面と略平行であるから、その磁界は審決が認定しているように陰極面(手段)と略平行な磁界(磁力線)である。

また、引用例一には「第5b図は……界磁コイル328、329が電極313、314に設けられ」及び「第5c図に……電極313または314に設けられた二個の界磁コイル」と述べられているにすぎず(訳文三二頁)、この記載から、図5b、5cの実施例で用いられているものは界磁コイルであり、それが磁心のある電磁石か空芯コイルかは明記されていない。したがって、電磁石であれば磁極があるが、空芯コイルであれば、磁極はない。仮に、空芯コイルの磁力線が密になる箇所を磁極と認めた場合でも、その磁極は図5bないし5dの界磁コイルの上下端部に形成されるので、陰極に隣接していない。また、電磁石とした場合でも、その磁心の形状が記載されておらず、磁極が陰極に接しているとはいえない。更に、永久磁石を用いてもよい旨の記載はあるが、磁石の形状についての記載がないので、磁極が陰極に接しているとはいえない。

引用例一の図5b、5c記載の実施例においては、磁力線の湾曲したもののみが電極に到達しているにすぎず、審決が認定するように、その磁力線の大部分は電極より大きく離れた位置を迂回しており、本件特許各発明との間に大きな作用効果の差異がある。すなわち、引用例一の磁石装置は、構成が明確でなく、磁極の存在及びその磁極が陰極に隣接していることが記載されてない以上、引用例一の図5bないし5dに電極の一の箇所から出て離間した他の箇所に入るように湾曲した磁力線が記載されていても、審決に認定に誤りはない。

三  取消事由二に対する主張

引用例二記載のイオンポンプはカソードスパタリング装置とは用途を異にするので、その荷電粒子のトラップのみをとらえて共通の技術とするのは誤りである。

第四証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件特許各発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本件特許各発明の概要

成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)(二欄九行ないし三欄三三行)によれば、本件特許各発明はカソードスパタリング装置に関するものであること、カソードスパタリングは特に基体に薄膜物質を被覆せしめる技術として広く知られ広範囲の用途に使用されているもので、この方法は陰極から気相を経て基体へ物質を輸送するプロセスによるものであること、陰極の金属原子が気相中へ飛び散らされる現象はそれを行なうのに充分なエネルギーを有するイオンの衝撃によって生ぜしめられるものであり、陰極面では先ず衝撃イオンと陰極面の間の運動量の移転が起こる結果原子が崩壊し、飛び散らされた粒子は排気可能な囲いの中を動き回って、その結果、基体上へ凝集し薄膜を形成すること、しかして、このような原理に基づくスパタリング装置は急速に進歩したが、なお、付着生成率の改良と同程度に薄膜の純度と凝集性についての改良が必要であるところ、本件特許各発明の目的は、①生成物を汚染するような漂遊粒子が室内に殆どないようにするため、陰極領域に帯電粒子を保持する働きによって帯電粒子を有効に活用して、低減された室内圧力と電圧下でスパタリングを行なうことが可能なカソードスパタリング装置を提供すること、②漂遊磁界が間違った場所にグローイングとスパタリングを生ぜしめて、装置を損傷し、又は生成物を汚染することのないよう、使用される予定の所へ磁界を集めその中での漂遊磁界の生成を固定的に抑制するような磁気構造を提供することにあり、本件特許各発明は、前記本件特許各発明の要旨のとおりの構成を採用することによって、カソードスパタリングをその生成率を実質上増大せしめ、都合の良い圧力レベルで行なうことを可能ならしめるとともに高い純度と凝集性の薄膜を基体上に生成することを可能ならしめ、構造上洗練されていないけれども経済的に操作することができ、取扱い、修理保全が簡単なカソードスパタリング装置を提供しようとするものであることが認められる。

三  審決の取消事由に対する判断

1  取消事由一に対する判断

(一)  引用例一は、本件特許の出願前である昭和四八年四月二六日に西ドイツ国において刊行物として頒布されたものであること、同引用例には審決が認定する内容が記載されていること、及び、同引用例には本件特許第1項発明が要旨とする構成のうちの「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられ、この磁気装置の一対の磁極間に現われる磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点から出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の湾曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成」する点を除き、同一の構成が記載されていることについては当事者間に争いはない。

(二)  原告は、引用例一には本件特許第1項とは同一の発明が記載されている旨主張するので、判断する。

成立に争いのない甲第三号証(引用例一)によれば、引用例一には、実施例を示す別紙二の図5bないし5d及び図8aないし8cが開示され、これら各図の説明として、「両電極313、314は、円筒状の高周波陰極を形成する。」との記載(訳文二九頁一八行)、「第5a図乃至第5d図に示す2重電極構造は、同様な円錐形電極314に対し同軸配列された円錐形電極からなる。これらの電極の縮小された両方の端部は、第4図と同様に電気的絶縁を得るために、絶縁体316により相互に分離されて対設されている。第5a図乃至第5d図のそれぞれは、種々のプラズマトラップが形成される磁界形式を示している。」との記載(同三一頁七行ないし一一行)、「第5b図は変形された電極構造を示すもので、この電極構造においては2個の磁界コイル328、329が電極313又は314に設けられ、かつ湾曲して電極に終端する磁界を発生する。従って第5b図に示す実施例は同様に、電極313、314の協動により閉じ込められる単一のプラズマトラップを形成する第5c図に示す実施例も、電極313又は314に設けられた2個の磁界コイル330、331を用いている。この場合において、それぞれのコイルから発生される磁界は同一電極から始まり同一電極に終端している。従って2個の分離されたプラズマトラップが形成されている。」との記載(同三二頁一一行ないし一九行)、「第5b図乃至第5d図に示される実施例では、磁界が、内側の界磁コイルにより発生されたが、原理的には永久磁石によっても発生することができる。」との記載(同三三頁一一行ないし一二行)、「第8a図乃至第8c図は、特に中空陰極にとって好ましい種々の磁界形式を示している。」との記載(同三五頁八行ないし九行)及び「第8b図に示す実施例では、磁力線が各電極の同一箇所から現われ、同一電極の別の同一箇所に再び入る。」との記載(同三五頁一八行ないし一九行)のあることが認められ、これらの記載及び引用例一の図5bないし5dに示された磁力線の出入りの状況によれば、引用例一には、本件特許各発明に最も関連する発明として、二個の円錐形電極からなる構造の陰極に界磁コイルを設けて、弧状の磁力線が一方の電極から他方の電極に終端し又は弧状の磁力線が各電極の同一箇所から現われ同一電極の別の同一箇所に再び入るプラズマトラップを形成する構成が開示されているものと認められ、同構成は、本件特許第1項発明の「磁力線の殆どは前記陰極の互いに離間した交点から出てかつ入り、この交点間を延びる磁力線の湾曲した部分は陰極面より離間し、これによって前記陰極面に沿って、前記磁気装置によって生ぜしめられる弧状の磁力線と、前記陰極面とで境界づけられた閉領域を形成」するとの構成を示すものであると認められるから、この点の開示を認定しなかった審決の引用例一に関する認定は失当といわなければならない。

被告は、界磁コイル328、329、330、331の中心軸は電極面と略平行であるからその磁界は審決が認定しているように陰極面(手段)と略平行な磁界(磁力線)である旨主張するが、前認定に係る引用例一の図5bないし5d及び図8aないし8cの実施例において、これら各図に示された磁力線は陰極に平行しておらず弓型形状に湾曲していることが明らかであるから、被告の右主張は理由がない。

なお、前記の原告の主張のうち、引用例一には本件特許第1項発明が要旨とする構成と同様の「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられた」構成部分が示されているとする点は、前掲第三号証によるも、引用例一にはプラズマトラップを形成する磁界の磁極の存在及びその具体的な位置の開示は認められず、したがって、原告の右主張は採用できず、この点の開示がない以上、引用例一には本件特許第1項発明が記載されていると認めることはできない。

(三)  なお、審決は、引用例一のものは本件特許各発明とは作用効果においても相違すると判断するので、右判断の当否について一応検討する。

まず、本件特許各発明の作用効果についてみるに、前掲甲第二号証によれば、本件特許公報には本件特許各発明の作用効果について、①「極片を使用することによって軸方向に極片と並列する周辺帯状部分に交点が集中する。磁界が実質上その周辺に連続しているので無数の該閉領域がお互いに接触しあい連続して形成され、それによって帯電粒子を捕捉し、それらが逃げるのを防ぐ傾向にある環状のトンネル状部分が提供される。そのトンネル状部分は帯電粒子をして陰極面に隣接した環状の内側周囲にうず捲かせ、そうすることによってスパタリングの効率を増加せしめている。これは多くの従来技術において見い出された欠点、特にクラークの特許において見い出された帯電粒子が磁気領域から逃げることが可能で、それ故、それらの装置の効率が極めて低いという欠点を解消したものである。」との記載(七欄二一行ないし三四行)及び②「本発明の利点は極片が磁界の位置と浸蝕領域を正確に決めることにある。」との記載(一五欄四行ないし五行)のあることが認められる。

一方、前掲甲第三号証によれば、引用例一には、「この発明によると、発生されたイオン一個当りのエネルギーの消費が最小となるように効率的なグロー放電が発生される。さらに、発生されたイオンの大部分をスパッタリング過程に使用することができるように、ターゲット面に関して位置決めされる領域にイオンが発生される。」との記載(訳文三頁一四行ないし一七行)及び「この発明は、プラズマトラップを作り、陰極から放出された一次電子の運動を半径方向及び軸方向に制限し、この電子のエネルギーの大部分が付加的プラズマを発生するイオン化衝撃に消費されてしまう迄、一次電子をターゲット面近傍に保持する。」との記載(同四頁一行ないし四行)のあることが認められ、これらの記載によれば、引用例一には、本件特許第1項発明における「閉領域の内部では帯電粒子が保持され、かつそれに沿って移動する傾向にあるトンネル状通路を形成する構成に相当する作用効果として、磁界により陰極面に形成した磁力線の閉領域内(プラズマトップ)に一次電子をそのエネエルギーの大部分が付加的プラズマを発生するイオン化衝撃に消費されてしまうまで保持してスパタリング効率を高めることが示されているということができるから、磁力線と陰極面で形成される閉領域により奏せられる作用効果の点において本件特許各発明と格別相違するものと認めることはできない。

2  取消事由二に対する判断

(一)  本件特許各発明と引用例一記載の発明との相違点が、引用例一のものには本件特許第1項発明のような「一対の磁極が陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられている」点についての開示がないことにあることは前認定のとおりである。

(二)  そこで、まず、本件特許各発明における磁極の陰極への隣接配置の点についてみるに、同発明における磁気装置の一対の磁極が陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられていること自体は同発明の要旨から明らかであるところ、更に、前掲甲第二号証によれば、本件特許各発明における一対の磁極を備えた磁気装置は、磁石そのものが極として作用する場合(一四欄二九行ないし三三行)と、磁石から分離可能で磁石の延長部分を構成する磁性体(磁性物質)の極片が極として作用する場合(六欄二四行ないし三〇行)、すなわち磁石のみによる磁界発生手段と磁石及び極片による磁界発生手段とを含み、右磁極の位置は、具体的には本件特許各発明の実施態様である本件特許公報の図1ないし20に示された磁力線の出入りの位置からみて、磁性部材又は磁石の陰極側の先端部分であり、図17においては右先端部分(磁極)は陰極と一定の間隔(なお、右一定間隔がどの程度であるかに関しては、本件特許公報中に何の記載もない。)をおいて記載され、図17以外の図においては右先端部分(磁極)は陰極と接触配置され、しかも、いずれも磁界の発生する側とは反対側の面に記載されていることが認められる。

(三)(1)  引用例二は、本件特許の出願前である昭和四〇年一一月九日に米国において刊行物として頒布されたものであること、及び、引用例二には、イオンポンプにおいて本件特許各発明のものと類似の電極と磁界発生手段との配置に関する記載があることについては当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第五号証(引用例二)によれば、引用例二記載の発明は、真空ポンプ、特にガスをイオン化して排気し、高真空を得るイオン真空ポンプに関するもので、このポンプは、ペニング型放電セルを使って、反応物質をスパタさせ、これにガス分子を吸着させ、あるいはイオン自身を吸着させて、高真空を得るものであること(訳文一頁二行ないし七行)、従来のイオンポンプに必要である大きな磁石は直接的な陽極通路に働く直線的な磁場が必要であったこからその重量が極めて大きいという欠点があったのに対し、同発明は、軽量量のペニング型放電タイプのイオン真空ポンプを供給することを目的とするものであること(同二頁一行ないし一三行)が認められる。

引用例二記載の発明の構成についてみるに、前掲甲第五号証によれば、引用例二には、特許請求の範囲として「排気すべき装置に接続するに適した第一室と、該第一室の内部まで延長している第二室と、該第一室内の陽極素子と、該第一室内の反応性陰極素子と、該第二室内に配置された磁場発生装置とよりなり、該第一室内の陽極陰極素子間に実質的に曲線磁場を作る手段を含むイオンポンプ」との記載があり(訳文一四頁三行ないし六行)、その実施態様である別紙三の図1の説明として「突入部4に近接してそのまわりに且つポンプ室3の内部に反応物質、たとえばチタンその他の物質よりなる陰極部材18を配置する。」との記載(同五頁一七行ないし一八行)、「突入部及び室10の内側に磁場発生装置20を配置する。図には複数個の方法が示してあるが、本発明によるポンプ動作については、このうち最も単純なものであっても構わない。この図では磁場発生装置20は永久磁石22、22'、22"より構成されている。これら磁石は円形磁石として示されているが、しかし最も強力な磁場を形成し得るような形状に形成された適当な磁石材料であればよい。各円板磁石の両面にマグネチックシズムすなわちポールピース24、24'、24"、24'''が配置され、これらの機能は磁石22、22'、22"によって確立される磁力線のための磁束経路を与え、かくして、これらの磁力線の経路は所望の形状乃至は方向を取り得る。」との記載(同六頁五行ないし一三行)及び「磁石22、22'、22"は磁石の同極側を重ね合わせるように配列する。したがってポールピース24、24'、24"、24'''の協力で作られる磁束は、ポンプ室8において点線で示した磁気回路に完全あるいはきわめて近似した形となる。」との記載(同一七行ないし二〇行)があることが認められる。これら記載によれば、引用例二記載の発明における永久磁石及び極片(マグネチックシム、ポールピースと同義)によって構成される磁場発生装置においても、本件特許各発明と同様、極片は磁石の延長部分を構成し、同極片の陰極側先端部分が磁極として作用するものと認めるのが相当であるところ、同磁極は別紙三の図1に示された磁力線の出入りの状況からみて対をなしていることは明らかであり、同磁極は突入部4を介して該陰極に隣接して(なお、別紙三の図6の実施例にあっては、突入部4が導体で、かつ陰極に接しているものであることは後に認定するとおりであるから、磁極は陰極に直接隣接していると認めることができる。)該陰極面の磁界の発生する側とは反対側の面に配置されているから、引用例二には本件特許各発明が要旨とする構成と同様の「磁気装置の一対の磁極は該陰極に隣接して該陰極面と反対側の面に設けられた」構成が示されているものと認めることができる。そして、右甲第五号証によれば、同じく実施態様である別紙三の図6の説明として「突入部4も導体で作られ陰極13を直接これに取付けてもよい。」との記載(同一〇頁一六行ないし一七行)があることが認められ、同記載及び前認定の記載内容を総合すれば、引用例二には本件特許第2項発明が要旨とする「導電性支持体が陰極をそれと面どおし密接した状態で支えている」点も開示されているものと認められる。更に、本件特許第3項発明が要旨とする「磁気装置が磁石に隣接しておかれ、前記磁極を形成し、そして陰極の前記側面(「前記側面」とは、陰極面と反対側の面をいうものと解する。)へ隣接して配置された一対の磁性極片を具備し、よって磁力線が主として該陰極を通過して向けられている」構成をも開示していることは、引用例二に関する前記の認定から明白である。

更に、前掲甲第五号証によれば、引用例二には、作用効果の記載として「マグネチックシム集合体により形成される磁束経路が曲線状となっているので、図1に示した陽極形状になる理由は次のものとして理解される。即ち、利用し得る磁束の主要部分を有利に利用するものであり、該磁束は本発明によれば放電経路にのみ与えられるものである。」との記載(訳文七頁一〇行ないし一三行)及び「磁場が存在しているので、電子は陽極の凹面部と陰極間の放電経路にトラップされ、この為これら電子と排気すべきガス分子間の衝突確率がかなり増大する。」との記載(同八頁一行ないし三行)があることが認められる。

(3) 引用例一に関する前認定によれば、引用例一記載発明は、スパタリングのための装置であるところ、磁界により陰極面に形成した磁力線の閉領域内に一次電子をそのエネルギーの大部分が付加的プラズマを発生するイオン化衝撃に消費されてしまうまで保持してスパタリング効率を高める作用効果を奏するものであるから、引用例一記載の発明における磁界を形成することの技術的意義は、磁力線による閉領域を生ぜしめ、その中に陰極崩壊により飛び出した帯電粒子(電子)を閉じ込めて有効利用することにあるものと解されるところ、引用例二に関する右認定によれば、引用例二記載の発明における磁場発生装置は、第一室内の陽極および陰極素子の間に実質的に曲線磁場を作るもので、磁極を陰極に隣接して、しかも磁場の発生する側とは反対側の面に配置する構造とすることにより、別紙三図1に点線で示すような閉じた磁気回路を設けるように曲線状の磁束経路をポンプ室8内に作り、このような磁場の存在により、電子は陽極の凹面部と陰極間の放電経路にトラップされ、これら電子と排気すべきガス分子間の衝突確率が増大するものであると認められ、引用例二記載の発明における磁場発生装置の技術的意義も、引用例一記載の発明における技術的意義と共通するものであると解するのが相当である。

(4) 以上によれば、本件特許各発明の構成は、引用例一記載の発明における磁界手段を引用例二記載の発明のものに置き換えることによって容易に想到し得るものであると認めることができる。

(四)  審決は、イオンポンプに関する技術を直ちに本件各発明のスパタリング装置に適用し得るとは認められないとして、引用例二に本件特許各発明における磁気装置の構成と類似の開示があるにもかかわらず、本件特許各発明の進歩性を肯定するので、その当否について判断する。

本件特許各発明及び引用例一記載の発明はカソードスパタリング装置に関するものであるところ、カソードスパタリングは特に基体に薄膜物質を被覆せしめる技術であること、一方、引用例二記載の発明は、真空ポンプ、特にガスをイオン化して排気し、高真空を得るイオン真空ポンプに関するものであることは前認定のとおりであって、両者の装置の使用目的が異なることは明らかである。

しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本件特許公報中には「スパタリングの方法は一九三九年二月七日にペニングに対して発行された米国特許第二一四六〇二五号……にりっぱに記載されている。」との記載(二欄二一行ないし二五行)及び「スパタリング技術の物理は一般に良く知られており、ペニングとケイの特許においても詳細に記載されている」との記載(二欄二九行ないし三二行)のあることが認められるところ、基体に薄膜物質を被覆せしめるカソードスパタリングは、イオンの衝撃によって崩壊し気相中へ飛び散らされた陰極の金属原子を基体上へ凝集し薄膜を形成する技術であること、また、イオン真空ポンプは、新たに沈積した活性なスパタ物質へのガス吸着及びイオン埋込みよってガスを除去するペニング型放電セルの放電作用を利用するものであることは前認定のとおりであるから、本件特許の優先権主張日前の当業者にとっては、スパタリングによる被膜形成技術及びイオン真空ポンプ技術は、ともにスパタリングすなわちイオンによる陰極物質の崩壊という同一の物理現象を利用する互いに密接に関連する技術分野のものとして認識されていたと認めることができる。

以上によれば、真空スパタリング装置とイオンポンプとは、装置全体としてはその使用目的及び構成を異にするものではあるが、両者は互いに密接に関連する技術分野であり、かつ、磁気装置もしくは磁界発生手段の部分に限定してこれを考察すれば、引用例一に示される技術手段と引用例二に示される技術手段は共通の技術的意義を有するものであることは前認定のとおりであるから、当業者が真空スパタリング装置における磁界発生手段としてイオンポンプにおける磁界発生手段の技術手段を採用することに格別の困難性はないものというべきであり、したがって、イオンポンプに関する技術を直ちに本件各発明のスパタリング装置に適用し得るとは認められないとして、引用例一に示される技術手段と引用例二に示される技術手段との組合せの容易想到性を否定した審決の判断は、相当とは認められない。

4  以上によれば、本件特許各発明は、引用例一及び二の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、また、その奏する作用効果も引用例一記載の発明の奏する作用効果と格別相違するものでないことは前認定のとおりであるから、特許法二九条二項の規定に該当すると解するのが相当である。これと異なる審決の判断は誤りであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は取消しを免れない。

四  よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用負担及び上告のための附加期間の定めにつき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、同法一五八条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

<以下省略>

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